今年7月3日に熱海市伊豆山で起きた大規模土石流で、起点の赤井谷地区にあった盛り土について、熱海市が10年前の2011年時点で重大な危険性を認識していたことが、10月18日、静岡県と市が公表した行政手続きに関する文書で分かった。盛り土を造成した前所有者の神奈川県小田原市の不動産会社(清算)に対し、安全対策を強制的に行わせる県条例(県土採取等規制条例)に基づく「是正措置命令」の発動を決めて行政文書を作りながら、発送を見送っていたこと、従わなければ、行政が費用を肩代わりする「行政代執行」に踏み込むことも検討していたことが明らかになった。
齋藤栄市長は同日午後、市役所で記者会見を開き、「今回の災害は人災としての側面も否定できない。忸怩(じくじ)たる思いがあるが、不十分ながら防災工事を実施しており、当時の判断が誤っていたとまでは言えない」などと説明した。
県及び市の公文書によると、06年に起点の土地を取得した不動産管理会社は、盛り土に木くずを埋めるなどの問題行為を繰り返し、市と県は10年10月ごろから、土砂崩落の危険性を共有している。この日の市長の説明では、市長が市の担当部所から報告が上がり、盛り土の危険性を初めて知ったのは同年4月と話し、6月ごろから是正措置命令の発動準備を進めたという。
それを察知した盛り土の造成業者が同年7、8月に土砂流出防止と排水対策。10月にのり面工事を始め、市は安全性が担保できる判断。11月に発動を見送った。しかし、その後、工事は中断され、業者と連絡をとることが難しい状況となった。
10年後に26人が死亡し、1人行方不明の土石流の大規模災害が起きたことから、この時の判断が正しかったか、1つの焦点となっている。
「今から思えば行政の厳しい対応を避けるための巧妙な手口だったと言わざるを得ない」と悔しさを滲ませて語る市長だが、一方で市は前年の10年10月8日に市長名で盛り土の造成業者に「(崩壊すれば)住民の生命と財産に危険を及ぼす可能性がある」として、土砂搬入中止の要望書を出していたことが、公文書で判明。市長の説明との間に齟齬(そご)があり、庁舎内での情報共有が十分でなかったことが浮き彫りとなった。
話を複雑化しているのが、当初の土地所有者が2011年2月に、盛り土を含む、周辺の土地を現所有者に売却していること。条例に基づく行政措置の対象は、計画を届け出た所有者に限られる。措置命令を発動しようににも、前所有社は会社を清算しており、できなかった。市は最初で最後の措置命令発動のチャンスを逃したことになり、遺族側からは「行政の過失」を問う声がでている。同日、県庁で記者会見した難波喬司副知事も「個人的には出すべきだったと思う」と述べた。
あらためて当時の判断が正しかったのかを問われたた市長は「重く受け止めているが、今の時点では正しい判断だったと考えている。判断は第3者、司法の判断に委ねたい」と繰り返し、行政の責任については「現時点ではあるともないとも言えない」と言葉を濁した。
今回の盛り土に関する公文書公開は、時系列に沿った手続きの列記が中心。県と市は今後、職員らに聞き取りして内部検証を進め、12月に設置する第三者委員会に諮り、本年度内に結論を出す。
(熱海ネット新聞)
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