和解案を市長が拒否 髪林孝司氏が明かす熱海国際映画際の舞台裏

市長の断念会見を受け、熱海国際映画祭実行委員会の髪林孝司代表(フォーカス代表取締役)も6月4日午後4時から、市内銀座町のシェアハウス「なえどこ」で記者会見を開いた。「今後の事情のいかんにかかわらず、予定通り、6月28日から実行委員会主催で第2回熱海国際映画祭を実施する」ことをあらためて表明した。
オープニングイベントは熱海後楽園ホテルと熱海ニューフジヤホテルで開催。屋外のレッドカーペットは行わず、メディアと映画関係者を集めて実施する。
映画祭はホテルの3会場と市の関連施設3会場を予定しているが、市の施設が使えない場合はホテルだけで開催するという。
「インターナショナルコンペティション部門(約40作品)だけなら、2スクリーンだけで対応できる。招待映画を上映すればもう1スクリーン必要だが、十分カバーできる」。チケットは週明けの10日からチケットぴあで発売し、料金は1日券1500円、1回券800円を予定している。
審査員は今回の騒動で辞退者が1人出たが、柏原寛治シナリオ作家協会会長、エリオット・グローブレイダンス映画祭設立者など残りの4人は続投。パンフレットも来週中には完成予定で、開幕への準備は進行している。
問題は財政面。市の補助金500万円は開催準備等に既に使われており、文化庁の助成金1250万円と静岡県文化プログラム350万円、静岡銀行の協賛金100万円、チケット収入250万円余りが財源。とりわけ悩ましいのが、市を通して申請し、1250万円の補助金支給が約束されながら、市が取り下げようとしている文化庁の問題。さらに保留扱いになっている県の助成金。
「嫌がらせにしか聞こえない。映画祭を誰がやるにせよ、ちゃんとやれば市の観光事業、映画界に貢献できる。この見込み収入がなければ、第2回熱海国際映画祭にかかった費用の支払いや過去の費用の支払いに支障をきたす恐れがある。そうなれば、回り回って市民の税金を使うことになる。採択された助成金を意図的に取り下げるのはサボタージュに等しい。交渉材料とか駆け引きで確保されている予定のお金を渡さないというのは、大人げないとしか言いようがない」と険しい表情で話し、実行委員会は市に対して予定通り文化庁の助成金手続きを行うように要請。受け入れられなければ、議会や市民に問題提起し、法廷での解決を図ると憤る。
「いずれにしてもやらない、という選択肢はない。映画祭には『他の映画祭に応募していない作品』というプレミア規定があり、熱海国際映画祭に出品した製作者は他の映画祭への出品を断念している。だから我々には開催する義務がある。規模が小さくともちゃんとした審査員がいて賞をあげれば、映画界にデビューできる。エントリー費(3000円)を返して終わる、そういう問題ではない」と不退転の決意を述べた。

袂を分けた5月22日以来、髪林氏と熱海市は反目が続き、29日には齋藤栄市長が実行委員会の代表を務める髪林氏を外して市主導の映画祭開催を発表。しかし、市には肝心の上映する映画作品がなく、髪林氏側には資金的に余裕がない。混乱が続く中、31日には森本要副市長が都内に赴き、和解の可能性を模索したという。
席上、市と実行委員会の共同開催、齋藤栄実行委員長と髪林氏のフォーカス社社長辞任、フォーカス社が500万円を借り入れ、実行委員会に資金提供、大幅な予算圧縮などの案が協議され、和解の流れはできた。しかし、第1回熱海国際映画祭の収支が1400万円余りの赤字になった髪林氏への不信感は払拭できず、市長は「市の負債を大きくするリスクがある」と拒絶、共催は消滅した。
「副市長と和解を模索し、話はいい方向に進んだように思えた。それを感情的な理由で協力できないとなれば、機会の損失。あってはならないこと」
会見の最後で髪林氏はこう話し、唇を噛み締めた。
(熱海ネット新聞・松本洋二)

熱海国際映画祭 熱海市VS髪林氏
■2017年12月4日 熱海市が東京・千代田区の日本記者クラブで記者会見を開き、「熱海国際映画祭」の初開催と概要を発表。齋藤栄市長と髪林孝司氏(フォーカス代表取締役)が説明。
■2018年6月 第1回熱海国際映画祭開催。6月28日~7月1日
■9月26日 市役所で第1回熱海国際映画祭の報告会見。実行委員会代表の髪林孝司業務執行役員が、4日間の来場者は5160人で目標の約半分。収入はチケットの売り上げ金536万円など3459万円、支出は3520万円。赤字額61万円はフォース社が負担すると説明。齋藤栄市長は、事務局機能などの強化を条件に2019年も継続開催すると表明。
■2019年3月11日 齋藤栄市長が市議会に第2回熱海国際映画祭を6月28日~7月1日に開催すると報告。補助金500万円を計上。
■5月10日 前年9月の収支報告で61万円としてきた赤字額が、1465万円あることが発覚。未払金(14社)はルー監督へのグランプリ賞金100万円など896万円。
■5月15日 熱海市と実行委員会代表の髪林氏が「第1回映画祭、第2回映画祭の債務、紛争、責任はフォーカス社が全て対処し、負担する」「熱海市は第1回映画祭、第2回映画祭とも負担金の500万円以外には支払わない」確認書に署名押印。
■5月20日 齋藤栄市長と髪林氏が市役所で共同会見。未払い等の負債問題の実情と返済計画を説明し、第2回は予定通り、開催することを表明。
■5月22日 齋藤栄市長、市長の弁護士、髪林氏の3者会談。映画祭のダウンサイジング案に髪林氏が反発。5月15日の確認書に反して熱海市に660万円を要求。「支払わなければ、コンペティション作品は上映せず、第2回熱海国際映画祭を運営しない」と通告。
■5月24日 熱海市は髪林氏への660万円支払い要求を拒絶し、実行委員会代表で業務執行役員解任を通告。「運営しないならコンペティション作品を熱海市に引き渡すよう」請求。
■5月25日 齋藤栄市長は、第2回熱海国際映画祭のコンペティション担当のマイク・ロジャース氏(映画プロデューサー)と協議。引き続き業務を継続することと上映作品リストおよび媒体を市に引き渡すことで合意。
■5月27日 齋藤栄市長が市役所で記者会見し、髪林氏の解任を発表。15日の確認書を反故にして660万円の支払いを求める恐喝行為があったことを公表。合わせて映画祭の上映作品入手を背景に、第2回熱海国際映画祭は市独自の事業で開催すると発表。髪林氏も熱海ニューフジヤホテルで会見し、解任無効、コンペ作品引き渡し拒否を表明。第2回熱海国際映画祭を実行委員会主催で開催を明言。
■5月27日 市長会見後、マイク・ロジャース氏が態度を翻し、熱海市へのコンペティション上映予定作品の引き渡しを拒絶。
■5月29日 齋藤栄市長が市役所で記者会見。市が映画祭で上映予定の審査通過作品40本を持っていないことを明かし、その上で第2回熱海国際映画祭開催に向け、準備工程表を披露。髪林氏も記者会見。あらためて市と同じ日程で映画祭開催を表明。対決色を強める。
■5月31日  森本要副市長が都内で髪林氏と会談、和解を模索。髪林氏が文化庁などの補助金手続き協力を条件に「市との共催、齋藤栄実行委員長の下で希望縮小開催」などを提案。距離が近ずく。
■6月3日  市長が和解案を拒否。弁護士がマイク・ロジャース氏に上映予定作品の引き渡しを再度要望したが、不発に終わり、市単独の映画祭開催も断念。
■6月4日  市長が一転して市独自の映画祭開催の断念会見。実行委員会による開催には関与せず、市の補助金500万円の返還要求。髪林氏が「予定通りの開催」を発表。

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