
NHK「たっぷり静岡in熱海」を見て、NHKスタッフの炯眼(けいがん)に敬服した。
糸川の熱海さくらが満開のこの時期に、起雲閣を起点に熱海の魅力を発進。これが民放テレビ局なら、お約束の芸妓見番や熱海梅園、来宮神社の流れとなるが、彼らがスポットを当てたは意外なところだった。
首都圏に住む社交ダンス愛好者を掘り起こし、5年かけて「ダンス目当ての宿泊者だけで年間3万人」の集客に成功したニューフジヤホテルである。
仲居なし。食事はバイキング。夕食時は生ビール、日本酒、ワイン、各種サワー90分飲み放題。カラオケも無料。365日同一料金。それでいて9800円でという伊東園ホテルグループの経営手法を熱海の旅館、観光関係者たちは、あえてシカト。が、同番組は数ある熱海の変化の中で、あえてこのホテルの企業努力に斬り込んだ。
番組によれば、このホテルは経営悪化で15年前に廃業。9年前に今の経営者が買い取り、厳しい競争を勝ち抜くには新たな“売り”が必要と判断。そこで5年前、支配人が多くの需要が見込める社交ダンスに目を付けた。50代から70代の愛好家をターゲットに「生バンドでダンスが踊れるホテル」をPRしたという。
「社交ダンス」を選んだのは、首都圏には裕福なシニア層の愛好家が多く、地の利を生かせること。もう一つは、設備にお金がかからないこと。これまで使ってきた団体旅行客のダイニング会場をそのままダンスフロアに仕立てたからである。
案の定というか、読みはぴたりと当たり、その数は年間3万人にというわけだ。
ここまで長々と書いてきたのは、このホテルの宣伝ではない。
明治時代から各界の要人が訪れた熱海には、実は驚くほど立派で格式あるダンスホールを有する旅館、ホテルが少なくない。実際、それを誘客につなげているところもある。しかし、日本の社交ダンス人口は170万にといわれ、まだまだ付け入るすきはある。
先のホテルでは、「次の一手」としてフラダンスファンの獲得に乗り出している。稼働率の低い会議室の再利用と、女性ファンの獲得が狙いだ。こちらは全国のフラダンス教室の受講者だけで100万人。ほとんどが公民館などでのレッスンで、年に1回でも熱海のホテル旅館で踊れるとなれば、心がときめくはず。そう読んでいるのだろう。
バブルの時期には180近くあった熱海の基幹産業であるホテル旅館は、昨年は118軒まで減った。この先、耐震補強問題でもっと少なくなる。いま問われているのは、洞察力。それを見事に言い当てた今回のテレビ放送だった。
起雲閣が素晴らしかった、あたみ桜がきれいだったと、喜んでばかりはいられない。
(編集主幹・松本洋二)
NHKテレビより
糸川ベンチャーズ 今井真一さん撮影
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