
起雲閣の企画展示室で「タウトと旧日向家熱海別邸展」をのぞいてきた。
熱海に住んでいれば、建築家ブルーノ・タウト氏の名前はよく耳にするが、正直よくわからなかった。
出かける前に調べて知ったのは、
4つの住宅群がユネスコの世界遺産になっている20世紀初期のドイツを代表する建築家であること。
昭和8年から同11年の3年余りを日本に滞在、桂離宮や伊勢神宮などの日本の伝統文化を紹介した人物。
そして国内に現存する唯一のタウト氏設計の建築が、熱海駅前の高台にある「旧日向別邸」の地下室-。
世界的建築家がなぜ日本に来たかというと、当時、ナチス政権が急激に台頭してきたからだ。
同別邸は、アジア貿易で財をなした日向利兵衛氏が、昭和9年から11年にかけて建設した。
その地下部分の細長い空間の離れを設計したのがタウト氏。ちなみに母屋の設計は
東京国立博物館、銀座和光、愛知県庁などで著名な渡辺仁氏。
タウト氏は追求し続けた建築理念を限られた空間にみごとに創り出してみせた。
桐と竹をふんだんに用いた社交室。部屋の一部として階段のある洋室客間。そして和室。
彼はこの3室をベートーベン、モーツァルト、バッハの音楽に例えている。
ところで、依頼主の日向氏は工事を監督するタウト氏夫妻のために、上多賀に民家を借り与えた。
上多賀を選んだのは、タウト氏が当地の海を”日本のリヴィエラ”と愛していたからである。
もう一つは、同時期、日向氏が上多賀にも別荘を建設していたこと。
それが現在の「多賀そば」。これは余談。
日向氏の死後、同別邸は民間企業の保養地として利用されていたが、2004年に熱海市が取得。06年に地下室部分が重要文化財に指定された。
なぜ、にわかに同展に興味を持ったかというと、同邸の維持・保存に取り組んでいるNPO法人日向家熱海別邸保存会(中井正勝理事長)が、
写真と屏風を使ってこの地下室の空間を再現。疑似体験ができる、と聞いたからである。
これぞ屏風の妙というか、社交室、洋風客間、和室の写真を絶妙のテクニックで引き延ばして貼り、
6曲の屏風2架と8曲の1架の計3つの屏風に地下室空間をまとめあげ、ご覧のように立体感を創り出している。
窓ガラス越しに、タウト氏の地下室をのぞいているような感じだ。
2月8日には同NPO副理事長で駿河台大教授・太田隆士さんのギャラリートーク(午後1時)がある。
世界的建築を疑似体験しながら、説明を受けるのも趣深い。
(編集主幹・松本洋二)
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